自治体が婚活事業に取り組むケースが増加中、その内容や根拠、実施体制について調べてみる
東京都が公的なAIマッチング事業を実施するとして、世間やネットで大きな話題となった。マッチングサービス以外にも、婚活イベントを実施する自治体が増えている印象を受ける。婚活を行政がサポートすることには賛否両論があり、私もそれぞれに説得力があると感じている。どんな施策にもメリット・デメリットは付きものだ。今回は、これらの婚活事業の目的や根拠、実際に自治体で行われている事業の内容を見ていきたいと思う。
婚活事業の目的や根拠について
自治体が婚活事業を実施する目的は明確だ。多くの自治体で掲げられているのは少子化対策であり、これを根拠にしている自治体がほとんどであると感じる。また、地域活性化といった側面もある。人口減少が深刻な地域では、域内での結婚によって人口流出を抑えることが喫緊の課題なのだろう。
そもそも行政が実施するべきなのか
自治体が婚活事業を実施することで、参加者は一定の安心感を得られるだろう。マッチングアプリや婚活イベントに初めて参加する人にとって、騙されるリスクは頭にある。しかし、自治体主催のイベントであれば、その内容にかかわらず、参加者への信頼はある程度担保される。
反対の立場からは、成果が出るかわからない事業への支出は税金の無駄だという意見がある。また、婚活イベントは民間が行うべきで、行政の役割を逸脱しているのではないかという意見もある。この意見にも一理ある。行政は、結婚を促進する環境づくり(子育て施策などの街づくり)に力を入れるべきで、結婚そのものを支援する施策はやりすぎだと考える住民も一定数いるだろう。
それでも、過去に比べて婚活事業を実施する自治体が増えているのは、それだけ少子化・人口流出が自治体にとって深刻な課題であることを示しているのだろう。
パートナーシップ制度との関係
近年、多くの自治体でパートナーシップ制度が実施されており、これは従来の婚姻にとらわれず事実婚や同性パートナーなど多様な生き方を応援する立場での施策。この影響もあるのか、パートナーシップ制度を所管する部署(人権担当や男女共同参画担当が多い)とは違う部署が婚活支援事業を実施しているケースが多い。
参考:パートナーシップ制度とは(みんなのパートナーシップ制度ホームページ)
民間との違い
一番大きな違いは、民間が実施する婚活では実施主体に利益がもたらされる点だ。当然、慈善事業ではないので運営費を賄う必要があり、参加費もある程度高くなる。また、学歴などが参加条件として問われるケースもある。特に多いのが、男性だけ参加費が高く設定され、学歴条件が厳しいといったケースだ。これは民間ならではと言えるだろう。
一方、自治体が実施する婚活イベントでは、男女間で学歴や年齢の制限に差が出ることはほとんどない。また、参加費についても男女同額である場合が多い。自治体は男女共同参画基本法や各自治体の男女共同参画基本計画を遵守する必要があり、男女間で参加ハードルに差をつけることは基本的にできない。合理的な理由がある場合は例外となるが、その理由がどの程度合理的とされるかは個別事例による。男性の参加費が高く設定されている自治体は、何かしらその理由を持っているはずだ(例えば、過去に男性しか集まらずイベントが実施できなかったなどが考えられるが、個人的には同額にしておいた方が無難だと思う)。
地域少子化対策重点推進交付金
地方自治体でも多くの婚活事業が実施されており、国もこれら取組を支援している。2023年度のケースを見ていく。こども家庭庁の施策で、地方少子化対策重点交付金がある。メニューは、以下の2つに大きく分かれている。それぞれ詳しくみていく。
- 地域少子化対策重点推進事業
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- 地域結婚支援重点推進事業
- 結婚支援コンシェルジュ事業
- 結婚、妊娠・出産、子育てに温かい社会づくり・機運醸成事業
- 結婚新生活支援事業
参考:令和5年度地域少子化対策重点推進交付金(こども家庭庁HP)
地域少子化対策重点推進事業
地方公共団体が実施する以下の少子化対策の取組に対して補助金を交付。メニューによって補助率が異なり、一番高い補助率で3/4。これは、事業費に100万円を要した場合に、実施自治体の支出が25万円、国からの交付金が75万ということ。
地域結婚支援重点推進事業
以下は事業例。
- 自治体間連携を伴う取組に対する支援
- AIを始めとするマッチングシステムの高度化
- オンラインによる結婚相談・伴走型支援
- 結婚支援ボランティア等育成モデルプログラムを活用した人材育成
- 若い世代向けのライフデザインセミナー
結婚支援コンシェルジュ事業
各都道府県に、専門的な知見を持つ者 をコンシェルジュとして配置し、各市町村の 結婚支援を技術面・情報面から支援
結婚、妊娠・出産、子育てに温かい社会づくり・機運醸成 事業
以下は事業例。
- 自治体間連携を伴う取組に対する支援
- 若い世代の結婚・子育てを応援する機運の醸成を図る情報発信等
- 男性の育休取得と家事・育児参画の促進
- 子育て支援情報の「見える化」と相談体制の構築
- 多様な子連れ世帯が外出しやすい環境の整備
- 多様な働き方の実践モデルの取組
- ICT活用、官民連携等による結婚支援等の更なる推進のための調査研究
結婚新生活支援事業
地方公共団体が行う結婚新生活支援事業(結婚に伴う新生活のスタートアップに係るコスト(家賃、引越費用等)を補助)を支援する。
対象となる世帯は夫婦ともに39歳以下かつ世帯所得500万円未満。対象経費は婚姻に伴う住宅取得費用、リフォーム費用、住宅賃借費用、引越費用。ただし、あくまでこれは国の交付金条件であるから、自治体が実施する際にはさらに範囲・対象を狭く設定している可能性もある。
担当部署はどこが多いか
国の補助金には幅広いメニューがあり、少子化対策には様々な分野からのアプローチが必要であることがわかる。地方公共団体では、多くの部署を縦断する取り組みが必要だ。例えば、「多様な子連れ世帯が外出しやすい環境の整備」には施設管理系の部署が担当となるだろう。「男性の育休取得と家事・育児参画の促進」には男女共同参画担当部署、新生活支援には住宅系の部署、「多様な働き方の実践モデルの取り組み」には産業・労働担当部署がそれぞれ関わることになる。
今回は、この中でも婚活支援に注目して記事を執筆しているが、子育て関係部署が担当しているケースが多いように感じる。実際のところはどうなのか、令和5年度に地域少子化対策重点推進交付金を活用して婚活事業を実施していた愛知県内の自治体について調べてみた。
- 結婚支援推進事業(愛知県/子育て支援課)
- 婚活サポーター養成事業(豊橋市/子育て支援課)
- 結婚支援事業(豊川市/子育て支援課)
上記以外で、筆者が見付けられた範囲で婚活事業を実施していた自治体の担当部署は以下のとおり。
- 婚活応援事業(蒲郡市/協働まちづくり課)
- 婚活イベント(大府市/こども若者女性課)
- 結婚応援センター(東海市/市民福祉部結婚応援センター)
- 結婚支援事業(小牧市/出会い・結婚支援室)
東海市や小牧市など、専門の部署を設置している自治体もある。次章では、愛知県内でどんな取組が行われているのか見ていく。
結婚支援の色々な事業
まず少子化対策事業として色々あるうちの一つが、結婚支援の事業である。さらに、結婚支援事業にも色々な種類がある。
専門部署の設置
小牧市の事例:出会い・結婚支援室を2023年度に新設。これまで民間の婚活事業支援を行なっていたが、直接的に支援事業を実施する方向に舵を切った。
東海市の事例:2009年度に未婚者支援対策協議会を設置。2011年に4月には協議会からの提言で、子育て支援センター内に結婚応援センターを開設。
婚活支援事業への補助金
小牧市の事例:少子高齢化の一因である未婚及び晩婚の増加に対する取組として、結婚を望む方の出会いや交流を目的としたイベントや、異性とのコミュニケーション能力の向上を目的とした事業を行う団体、企業等に対して補助金を交付している。補助率1/2で上限10万円。
婚活イベントの実施
大府市の事例:県内在住・在勤・在住の20〜39歳の独身の人が対象。舞台は「ぶどう狩り」や「花火大会」。マッチング結果は、カップルが成立した場合に後日知らされるらしい。
結婚支援セミナーの実施
豊川市の事例:会話術やマナーに関する基本的な知識や態度を身に付けることや、最近の婚活事業や服装などの専門的な知識を身に付けることを目的とし、専門家を講師としたセミナーを行なっている。
結婚相談の実施
小牧市の事例:結婚の意志を有する20歳以上の独身者とその家族を対象に、結婚に対する悩みなど相談できる結婚相談窓口を開設。専門の結婚カウンセラーが相談に応じる。ホームページには、『お見合いなど、相手の方を紹介するものではありません』という注意書きがあった。
結婚新生活支援補助金
結婚に伴う経済的負担を軽減するため、新婚世帯に対して新生活のスタートアップに係るコスト(新居の家賃、引越し費用等)を支援する事業。国の地域少子化対策重点推進交付金の補助メニューにあるため、国の補助金が活用されているケースが多い。
愛知県内では、令和5年度で岡崎市、大府市、田原市、弥富市、みよし市、豊山町、東浦町、武豊町で実施されていた。この制度があることを知らない人は損してしまうので、自分の住む自治体が実施している場合は要確認。
結婚支援に関するアンケート調査
小牧市の事例:結婚に対する意識や行政が行う結婚支援策についてのニーズを把握するためのアンケート調査。こういった調査を行政が行なっているケースはレアだと思われるので、大変参考になる。
実際に私も調査結果を読んでみた。注目したのは、「独身でいる理由」の部分。①「異性と出会う機会(場)がない」が48%、②「結婚後の生活資金が不安」が30%、③「理想の相手がいない」が23%、④「時間やお金が自由に使えるから」が21%、⑤「異性とうまく付き合えない」が20%となっている。これまで紹介してきた事業で対応するのであれば、①③が婚活イベントの実施、②は結婚新生活支援補助金、⑤が結婚相談となりそう。
今後、取り組みは広がっていくのか
婚活事業に新たに取り組み始めた自治体が増えている。どの程度マッチングが成功するのかなど、先行事例の実績によって、他の自治体にも取り組みが広がるかどうかが影響されるだろう。本来の目的である少子化対策にどの程度効果があるのか、効果測定は難しいが、今後の各自治体の動きに注目したい。
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