複数の自治体を管轄する、愛知県内消防組織を調べてみる
愛知県で一番規模の大きい消防は、名古屋市を管轄する名古屋市消防局です。その他、中核市である豊田市、岡崎市、一宮市、豊橋市はそれぞれ消防本部があります。
ただ、一部地域には複数の市町村が共同で消防事務を行うために一部事務組合や広域連合が設置されているケースがあります。消防費は、市町村の歳出額のうち、大体3%程度を占めることが多いようです。財政規模が小さい自治体にとっては、かなりの負担ですよね。これを広域連携で実施することで、スケールメリットを享受でき、効率化を図ることができる訳です。
今回は、愛知県内の広域連携で消防事務を行なっている地域を調べてみます。それぞれの結び付きを見ることで、県内で仲の良い自治体関係が見えてくるかもしれません。
広域連携の種類について
今回は消防業務の広域連携について見ていきますが、広域連携は様々な業務で行われています。非常によく見られるケースとしては、ごみ業務や火葬場業務があります。そして広域連携と言っても、その形態は複数存在します。今回は、愛知県内における消防の広域連携で登場する3つの形態について簡単に紹介します。
事務の委託
地方公共団体の事務の一部の管理・執行を他の地方公共団体に委ねる制度です。県内では、設楽町、東栄町、豊根村が新城市へ消防事務を委託しています。
一部事務組合
地方公共団体が、その事務の一部を共同して処理するために設ける特別地方公共団体です。消防業務の広域連携では、全国的、そして愛知県内でも一番多く見られる形態です。
それでは、愛知県内の広域連携について見ていきます。
広域連合
地方公共団体が、広域にわたり処理することが適当であると認められる事務を処理するために設ける特別地方公共団体です。国又は都道府県から直接に権限や事務の移譲を受けることができます。後期高齢者医療業務や介護保険業務などを行うケースが多いです。愛知県内には、4つの広域連合があり、そのうちの衣浦東部広域連合が消防事務を処理しています。
衣浦東部広域連合消防局
管轄は、碧南市、刈谷市、安城市、知立市、高浜市です。管轄区域の人口は約50万人であり、豊田市のみを管轄する豊田消防本部を超え、県内2位の消防組織となっています。
2003年に衣浦東部広域連合が発足し、碧南市消防本部・刈谷市消防本部・安城市消防本部・知立市消防本部・高浜市消防本部の5つの消防本部が衣浦東部広域連合消防局に移行しました。
ここで都市地理的に気になるのは、その本部はどの市町村に置かれているか、ということ。普通に考えれば刈谷市か安城市ですが…。調べると、事務所は刈谷市小垣江町に設置されていました。
地図で位置を見ると、ここへ設置された理由が大変よく分かります。5市すべてに向かいやすい、最適な場所ですね。
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尾三消防本部
管轄は、日進市、みよし市、東郷町、豊明市、長久手市の4市1町。管轄人口は約32.5万人で、春日井消防本部を上回ります。
1971年に、日進町、三好町、東郷町の3町で尾三消防組合が設立されました。現在の4市1町とは全然状況が違いますね。この地域は、尾張東部に位置し、人口増加が大変顕著な地域です。設立メンバーであった日進町、三好町は後に市制移行しました。2018年に、豊明市、長久手市が組合に参加し、現在のメンバー構成となっています。みよし市だけは三河地方という点が面白いですね。「尾三」は、尾張と三河が由来です。
本部は、東郷町に置かれています。構成市町の位置的に真ん中ですね。みよし市は豊田市と広域連携をしそうなイメージでしたが、50年も前から尾張地方の日進町・東郷町と連携していたのは意外でした。
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知多中部広域事務組合消防本部
管轄は半田市、阿久比町、武豊町、東浦町。管轄人口は約24万人です。
本部は、半田市東洋町一丁目6番地に置かれています。半田市役所のすぐ隣です。この組合は1市3町ということもあり、半田市のリーダーシップが伝わってきます。
また、知多中部広域事務組合は消防業務のほか、斎場業務も担っています。
構成市町である東浦町は大府市と関係が深い印象ですが、消防は半田市と連携しているんですね。ちなみに、東浦町はこれまで半田警察署の管轄でしたが、大府警察署が新規で誕生すると大府警察署管轄に移管される予定です。
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西春日井広域事務組合消防本部
管轄は清須市、北名古屋市、豊山町。管轄人口は約17万人。消防に関する事務のほか、休日急病診療に関する事務なども行っています。
2003年の発足時は、西春日井郡師勝町・西春町・西枇杷島町・新川町・清洲町・春日町及び豊山町の7町で構成されていました。合併が進み、現在は2市1町です。
本部は、愛知県北名古屋市井瀬木狭場15番地に置かれています。少し東寄りな気がしますが、清須市には消防署があり、豊山町には消防署がありません。そう考えると絶妙なバランスの位置関係です。
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海部東部消防組合消防本部
管轄はあま市、大治町。管轄人口は約12万人です。瀬戸市消防本部に次ぐ規模の消防組織です。
1971年、海部郡七宝町・美和町・甚目寺町・大治村の3町1村によって海部東部消防組合が設立されました。大治村は町制移行し、他自治体は合併であま市となりました。
津島市、蟹江町、海部南部消防組合、愛西市とともに海部地方消防指令センターを共同運用していましたが、2025年4月から消防指令センター業務は名古屋市消防局へ委託される予定だそうです。
本部はあま市七宝町に置かれています。
なお、めちゃくちゃレトロなホームページで、なんだか懐かしい気持ちになれます。
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丹羽広域事務組合消防本部
管轄は扶桑町、大口町。管轄人口は約5.8万人。
消防だけでなく、水道事業も広域で実施していて、どちらも本部は大口町に置かれています。
この2町って過去に合併構想があったのか気になって調べてみましたが、扶桑町は犬山市と合併構想があったみたいですね。編入合併の形になってしまうため合併には至らず現在に至っているようです。
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新城市消防本部
管轄は新城市、設楽町、東栄町、豊根村。管轄人口は約5.5万人。
設楽町、東栄町、豊根村が新城市に常備消防事務を委託している形態。よって本部は新城市。このケースは、一部事業組合では無く、あくまで新城市消防が多自治体の消防業務を行っている構図です。
海部南部消防組合消防本部
管轄は弥富市、飛島村。管轄人口は約4.9万人。本部は愛知県海部郡飛島村に置かれているようです。昭和48年に誕生した、小さな消防組合です。
海部地域には東部組合と南部組合の2つの組合が存在します。規模の小さい自治体が多い地域なので、もっとまとまっていると勝手に想像していましたが、津島市や蟹江町は単独で消防業務を行っているみたいです。ちなみに、蟹江消防本部は愛知県で一番管轄人口が少ない消防組織となっています。
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知多南部消防組合消防
管轄は南知多町、美浜町です。管轄人口は約4万人です。区域内には日間賀島や篠島を含み、それぞれ分遣所が設置されています。
これは予想ができましたが、やはり南知多町と美浜町は合同で消防業務を行っていました。幻の南セントレア市が成立していれば、組合は解散となり、南セントレア消防本部が設置されていたことでしょう…。
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まとめ・感想
愛知県内には結構な数の消防組合がありました。調べてみると、まず平成6年に消防庁から「消防広域化基本計画の策定指針」が出されます。平成18年には消防組織法が一部改正され、消防広域化を推進すること、国に対し消防広域化基本指針を定めること、都道府県に対し広域化推進計画策定すること、が盛り込まれたようです。
また、消防組織は別であっても、消防指令センター業務に関しては広域化を進めている地域もあり、今後も組織の統合は進んでいくと思います。ただ、愛知県は財政的に豊かな自治体も多く、人口減少も他県に比べれば穏やかなので、広域化が喫緊の課題とまではいかないのかもしれません。北海道を見てみれば、広域消防だらけです。とかち広域消防局に至っては、なんと19市町村(市は帯広市のみ)という超広域消防までありました。みなさんも、ぜひ自分の住む街の消防組織について調べてみてください。
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